隣人はご機嫌ななめ

隣人カップルはよく喧嘩をする。喧嘩といってもかなり激しめの喧嘩だ。男女の怒号、床を走り回る音、壁の振動、女性のすすり泣く声。仕事へ行く前に支度をしようと鏡の前に立つと「だから私はそんな事言ってない!!」という女性の金切り声と共にゴングがカーーン!試合開始の合図だ。

夫婦か恋人同士かは知らないけれど、ここではカップルと呼ぶことにする。月に一度隣人カップルは爆発するらしい。隣人の私はいい迷惑だ。人の怒鳴り声というものはかなり精神的ストレスになる。隣でどんな争いをしているのかは分からないので、警察に連絡していいのかも分からない。まったく困ったものだ。

 

私と恋人はほんとうに言い争いになることもないので、隣人はまるで宇宙人みたいだ。よくそんなに喧嘩するネタがあるな、と思う。怒るよりも諭すほうがよっぽどいいのに。私も決して短気ではないとは言いきれない性格だけれど、そうした方がいいということは分かる。怒るなんて、ただのエネルギー消費に過ぎない。

そう言えば、他人に怒るってことを随分していない。イライラすることと怒ることは似ているようで全然違う。小学生の頃は自分にも他人にも怒り狂っていたというのに。思えばあの時が1番人間らしかったのかもしれない。嬉しい時に笑って、悲しい時に泣いて、腹が立ったら怒る。私は怒りすぎると、自らのキャパシティーを超えて、怒りながら泣くというしっちゃかめっちゃかなことになる。きっと怒っている自分が嫌いなんだろう。だんだん訳が分からなくなって悲しくなって、泣く。泣くことも当分していない。不純物が躰に溜まっていく感覚がもどかしくなる。

父が昔「月に一度は映画や本を読んで思い切り泣いた方がいい、デトックスされるから」と言っていた。根っから昭和の父の口から“デトックス”という言葉が出るなんて、ギャル風に言えばウケる、だ。でも本当にその通りだった。なんらかのかたちでリフレッシュしないと、いよいよ本当にだめになってしまう。これを読んでいるあなたも、あなたなりのデトックスの仕方があるといい。腹が立ったらカラオケに行くといい。泣きたくなったら哀しいラブ・ストーリーの映画を観るといい。または、話を聞いてくれる相手がいたらもっといい。私の好きな人達が、明日もっと生きやすく過ごせますように。